消費者事件と労働事件

[コラム] 2016/08/11

私は、労働事件の他に、消費者事件もよく扱っている。消費者契約法は、消費者を「個人(事業として又は事業のために契約の当事者となる場合におけるものを除く。)」としており、消費者契約を「消費者と事業者との間で締結される契約」としている。多くの消費者法でも同じような考え方をしている。そうすると、理屈上、労働契約はすべて消費者契約になってしまう。そこで、消費者契約法48条は、労働契約については適用しないと規定して消費者契約法の適用範囲から労働契約を除外している。他の消費者法でも同じような考え方をしている。ここで、どのような契約が「労働契約」なのかは、定義されておらず、消費者法の中ではあまり議論もされていない。特に困りもしなかったからであろう。

最近、事業者が、個人から継続的に役務の提供を受けているのに、「労働契約」ではないとして、労働法の保護が受けさせない事例が散見される。もちろん、「労働契約」であるとして保護を求めていくことが第一になされるべきことである。

しかし、「労働契約」でないというのであれば、消費者法の側での保護を考えるべきではないだろうか。消費者の定義の「事業として」というのは、自分の事業としてということであり、他人の事業のために働いている場合は当たらないはずである。実際にも、マルチ商法など消費者が一定程度事業性を有する場合でも、消費者法の保護が及んでいる。労働契約でないのであれば、なんらの保護も得られないというのはおかしいのではないかと思う。

ところで、10月から消費者裁判手続特例法が施行される。これは、労働契約を除く消費者契約に関する一定の請求について一定の消費者団体が集合訴訟を起こせるという日本では他に例を見ない制度である。10月以降には、労働契約でないというのであれば、集合訴訟で訴えられる可能性が出てくるということを意味する。これを機会に、労働契約でないという言い逃れをする事業者が、やっぱり労働契約だと言ってくれないかと期待している。

弁護士 鈴木敦士