労働弁護団 関東ブロック総会に参加してきました!

[コラム] 2016/08/03

7月22日23日の2日間、千葉県銚子にて行われた、日本労働弁護団の関東ブロック(東京、千葉、神奈川、埼玉、群馬、栃木、茨城、山梨、長野)の総会に参加してきました。銚子は遠い遠いと言いながらも、東京支部からは16名、総勢では70名近くの労弁に所属する関東各地の弁護士が集まりました。

1日目は毎年いろいろなテーマで講師をお呼びしていますが、今回は、近年運動の盛り上がりを見せている最低賃金問題を取り上げ、ユニオンや研究者からの報告して戴きました。2日目は例年通り、労働弁護団本部からの報告と各地からの報告がなされました。

1日目の前半は、首都圏青年ユニオン委員長である神部紅氏からの「最低賃金をいますぐどこでも時給1000円に!時給1500円をめざして ~新たな取り組みとこれからの課題~」との講演。最近の最低賃金運動についての実践的な取り組みや今後の課題などについてお話しいただきました。なかでも、興味深かった話をいくつか。

わが国では、「非正規の社員が全体の4割」と言われているが、最低賃金全国加重平均の時給798円に所定内労働時間1860時間で年収を計算すると、148万4280円、東京都の最低賃金が時給907円に同じく1860時間で年収を計算すると、168万7020円にしかならない。つまり、現状の最低賃金ではフルタイムで働いても年収200万円にも全然届かないという事実。「非正規の7割が年収200万円未満」という報道などと合わせると、非正規のかなり多くの人が最低賃金に近いところで働いている現状。

マスコミのアンケートで、「非正規で働くことを選択した理由は、『自分の時間で(ペースで)働けるから』が37%」などとの一部報道もあるが、非正規の人たちは現実には選択などできていない、非正規で働かざるを得ない状況の人がほとんどだ。という現状の報告。

など、最低賃金の問題と非正規の問題が密接に絡みあっていることについて、改めて認識しました。

また、全世界で「Fight  For $15!」の運動が行われており、神部さんたちも日本からも積極的に参加し、全世界的な運動の連携が図られており、大きな盛り上がりを見せており、今、非常に元気がある! と感じました。

また、1日目後半は、一橋大学大学院社会学研究科フェアレイバー研究教育センターの高須裕彦先生から、「貧困大国アメリカの変革 ~なぜ、最低賃金の大幅な引き上げが実現したのか?~」との講演をいただきました。途中、短いビデオなど何度か流しながら、アメリカの労働運動の歴史、また最近のアメリカの労働運動でトピック的なもののお話をいただきました。

例えば、「市民的不服従」の話では、労働者と地域の支援者らが連携し、過去の公民権活動の手法を積極的に取り入れ、路上でデモの後、座り込みをし、その直後あえて逮捕されるという運動を紹介いただきました。これらの一連の行動や当該労働者や支援者のインタビューはマスメディアを通じて全米に流されており、ある種のストリートパフォーマンス的な側面もある反面、これらの運動をきちんと伝えていこうとするアメリカのマスメディアの報道姿勢も垣間見え、なかなか興味深かったです。

また、アメリカでも労働組合の組織率低下が問題となっているとのこと。ただ、アメリカでは、元々、会社の過半数の組織率がないと団体交渉権すらないということもあり、組合にこだわらずに、地域コミュニティと連携して社会運動の戦略を入れたり、新しい労働者組織として、労働NGOというものを作るようになったりしているという話がありました。これは、日本でいうコミュニティユニオンに類似するようなのですが、興味深かったです。

そのほか、生活賃金キャンペーンと題して、公的資金を投入した仕事の労働者には最低賃金などではなく、さらに生活賃金を要請する動きもあるとのことでした。日本でいう公条例に若干似ているかもしれません。

さいごに、アメリカのファーストフードなどの労働者の問題について研究する中で、最賃で働く労働者の実像、どんな人が最賃で働いているのかが明らかになったとのこと。というのも、マクドナルドなどの労働者について調査してみたところ、税金投入の生活保護適用者が多く、彼らで店舗など維持されていることが明らかになったと。このことから、アメリカでは、政党の枠を超えて大きな問題として取り上げられるようになっているとのことが、興味深かったです。

近年、最低賃金の運動がよく取り上げられるようになってきましたが、お二人の話を聞いてみて、たしかに運動に勢いがあって、世界的に運動が広がっているというのも、なるほど、と思いました。

今回のお話しは、私たちの日ごろの労働事件などにすぐに生かしていくのは難しいかもしれませんが、案件の中では非正規の方達からの相談も多く、何らかの形で生かしていきたい、また、今度の最低賃金の運動にも着目してきたい、と強く感じました。

 

弁護士 早田賢史